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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)1305号 判決

原告

森武治

代理人

酒見哲郎

被告

中川泰孝

被告

北口幹夫

右両名代理人

米岡弘泰

復代理人

山口貞夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告中川は、別紙目録記載の土地(本件土地)(1)、(2)、(3)につき、京都地方法務局城陽出張所昭和四二年三月一六日受付第一、七三六号、本件土地(4)、(5)につき、同出張所同日受付第一、七三七号、各昭和二三年八月二七日相続に因る所有権移転登記を、同一相続に因り被告中川の持分二分の一、原告の持分二分の一の割合で共同相続をした旨の所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

二、被告北口は、本件土地(4)、(5)につき、前項の更正登記をすることを承諾せよ。

三、被告北口は、本件土地(4)、(5)につき同出張所昭和四二年七月二日受付第四、三四六号昭和四二年四月二〇日売買に因る所有権移転登記を、同一売買に因り被告中川の持分(二分の一)を取得した旨の所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

四、原告が本件土地(1)ないし(5)について二分の一の共有持分権を有することを確認する。

五、訴訟費用は被告等の負担とする。

(被告等)

主文同旨

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、本件土地(1)ないし(5)は、中川竹次郎の所有であつたが、同人は、昭和二三年八月二七日死亡し、同人の相続人は、三男原告(法定相続分二分の一)、二男亡中川義次の長男の被告中川および長女の訴外前野宗子(法定相続分各四分の一)の三名である。

二、被告中川は、原告および前野宗子作成名義の、「私は中川竹次郎の相続人でありますが、私は被相続人より私の相続分を越えたる価格の財産の贈与を受けたので同人の死亡により開始した相続に関しては相続分を受けることができないことを民法第九〇三条によつて証明します」と記載した証明書(本件証明書)を添附し、本件土地(1)、(2)、(3)につき、京都地方法務局城陽出張所昭和四二年三月一六日受付第一、七三六号をもつて、本件土地(4)、(5)につき、同出張所同日受付第一、七三七号をもつて、被告中川単独所有名義に、前記相続に因る所有権移転登記をし、更に、被告中川は、本件土地(4)、(5)につき、同出張所昭和四二年七月二日受付第四、三四六号をもつて、被告北口に対し、同年四月二〇日売買に因る所有権移転登記をした。

三、原告は、本件証明書を作成したことなく、中川竹次郎から民法第九〇三条の特別受益を受けたことなく、被告中川に対し本件土地の持分権を譲渡したこともない。

四、よつて、原告は、被告等に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

(請求原因事実に対する認否)

請求原因一、二の事実は認めるが、その余の事実は争う。

(抗弁)

一、被告中川は、昭和四二年三月二日、原告を訪れ、司法書士放示素男作成の本件証明書を示し、「本件土地(1)ないし(5)につき、被告中川単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をしたいから、証明書に判を下さい。」と依頼したところ、原告は、「お前の名前にしたらよろしいがな。」と言つて、本件証明書の原告名下に捺印したうえ、これを被告中川に交付したのであり、これによつて、原告は、本件土地(1)ないし(5)に対し原告の有する持分権を、被告中川に贈与した。

二、被告北口は、本件土地(4)、(5)につき、原告承諾のうえなされた、被告中川単独所有名義への相続に因る所有権移転登記を信用して、被告中川から本件土地(4)、(5)を買受けた。

第三、証拠〈省略〉

理由

下記一、二の事実は当事者間に争がない。

一、本件土地(1)ないし(5)は、中川竹次郎の所有であつたが、同人は、昭和二三年八月二七日死亡し、同人の相続人は、三男原告(法定相続分二分の一)、二男亡中川義次の長男の被告中川および長女の訴外前野宗子(法定相続分各四分の一)の三名である。

二、被告中川は、原告および前野宗子作成名義の「私は中川竹次郎の相続人でありますが私は被相続人より私の相続分を越えたる価格の財産の贈与を受けたので同人の死亡により開始した相続に関しては相続分を受けることができないことを民法第九〇三条によつて証明します」と記載した証明書(本件証明書、乙第一号証の一の一)を添附し、本件土地(1)、(2)、(3)につき京都地方法務局城陽出張所昭和四二年三月一六日受付第一、七三六号をもつて、本件土地(4)、(5)につき、同出張所同日受付第一、七三七号をもつて、被告単独所有名義に、前記相続に因る所有権移転登記をし、更に、被告中川は、本件土地(4)、(5)につき、同出張所昭和四二年七月二日受付第四、三四六号をもつて、被告北口に対し、同年四月二〇日売買に因る所有権移転登記をした。

〈証拠〉によれば、被告中川は、昭和四二年三月二日、原告を訪れ、司法書士放示素男作成の本件証明書を示し、「本件土地(1)ないし(5)につき、被告中川単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をなしたいからこの証明書に判を下さい。」と依頼したところ、原告は、中川竹次郎から民法第九〇三条の特別受益を受けたことがなかつたのであるが、被告中川の右依頼を承諾し、本件証明書の原告名下に捺印したうえ、これを被告中川に交付した事実を認めうる。証人森ツルの証言および原告本人の供述のうち、右認定に反する部分は採用し難い。

共同相続人甲が、共同相続人乙の依頼にもとづいて、被相続人名義のA不動産につき乙単独所有名義に相続に因る所有権移転登記をするために、「甲は民法第九〇三条により相続分がない」旨の事実に反する証明書を、乙に交付した場合、甲は、共同相続人としてA不動産に対して有する自己の持分権を、乙に贈与したものと認めるのが相当である。

したがつて、原告は、共同相続人として本件土地(1)ないし(5)に対して有する自己の持分権を、被告中川に贈与したものと認めうる。

よつて、原告の被告等に対する本訴請求は、その余の判断をなすまでもなく、失当として、これを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。(小西勝)

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